シントニクスディンシャーがスペクトロクロムの開発を進めていたのと同じ頃、ハリー・ライリー・スピットラー博士が思案をめぐらせていた着想は医学界にとって革命的なものだった。博士号を四つ取り、パピットらの研究成果を学んだ後の1909年、スピットラーは光治療の研究に着手する。自分の管理する療養所で光治療を診療に使い、1919年まで独自の技術を磨いた。その時の観察から、彼は同じ手法を眼に応用しようと思いつく。眼に応用して高い成果が得られたため、彼は、光エネルギーが生物に与える効果をさらに研究することにした。 1923年,24年にスピットラーは興味深い一連の実験を始めた。グループ分けしたウサギごとに周囲の光をいろいろと変えて、その反応を評価したのである。ウサギにあてる光の色はカゴの前に置いてある光フィルターでつくり出す。他の変数(食、住、環境等)は各グループとも同じである。研究開始から3〜18ヶ月たつと、驚くべき結果がいくつか明らかになった。ウサギに異常が現れ始めたのであら。例えば脱毛(全部あるいは部分的な脱毛)、中毒の微候、体重の異常、消化不良、不妊症、骨の発達異常、白内障などである。こうした症状はウサギにあてられている光の色の差異と関係があるに違いなかった。 自立神経系と分泌系のアンバランスがウサギのこうした異常と関係していると判断したスピットラーは、光が二つの系にどんな影響を与えているかについてさらに研究をすすめた。 その結果、直接両系を支配している脳の領域が眼ともつながっている、それも脳の中で一番短くて最も高度の組織化された神経路を通して直接つながっている、との確信を得た。彼は次のように結論を下した。遺伝や環境や栄養は、私たちの生命に大きな役割を果たしているが、機能、行動、生理学的な反応を変えるのに最も重要な役割を果たしていりのは光である、と。つまり、眼に入る光の色を変えるだけで、自立神経系のバランスがくずれたり、回復したりするし、その結果、機能にも影響を与えるということである。1927年、スピットラーは目に光を投与する器具の開発にはじめてとりかかる。検眼と両方の学位を持っている彼には、眼を通して光で治療すれば、脳の中にある体の機能すべてを統制している主だった制御中枢の働きを増進できることがわかった。眼の機能は、直接神経系に依存し仲介されているので、こうした形の治療によって視覚機能もじかに影響を受ける。スピットラーが発見した「マスターキー」は、新しい治療のアプローチ全体に通じる扉を開くことができる。17年間すすめてきた研究で得た発見から思いついた新しい科学の原理を、スピットラーは「シントニクス」と名づけた。シントニクスの語源は、同調(syntony)という語(調和をもたらすこと)であり、生理学的に調和および統合された神経系を指す。スピットラーの治療システムは、先人たちのシステムよりもわかりやすかった。眼から光を取り入れただけでなく、患者の身体と感情の構造や体質のパターンに応じて治療を行ったからである。彼は、人間の全体的な構造が、機能に与える影響を大きく左右するということをよく承知していた。そのため彼がtyくりあげたシステムは、誰もが皆同じように光を処理したり利用したりしているわけではないという仮説に基づいている。彼は、使う光の色ではなく、特殊なフィルターから伝わる周波数の影響力やエネルギーの中味に大きな関心があった。光の周波数が違っても色は同じように見える。そこでスピットラーは、フィルターの組み合わせのそれぞれにギリシア文字をつけて区別しやすくした。治療用にフィルターを組み合えあせた数は31にのぼるが、いつも使ったのはせいぜい20種である。研究と診療に幅広く使った結果、シントニクスが有効な治療手段であるとの確証を得たスピットラーは、1933年にシントニック検眼学校を設立して、研究と教育の中心施設にした。1941年に書き上げた論文「シントニクスの原理」(The Syntonic principle)は、その後、この新しい科学のテキストの決定版となっている。この学校では、シントニクスを可視光の特定の領域を扱う眼の科学の一分野であると定義している。シントニクスの手法が眼を通して適用されると、シントロニクスは周囲とのバランスをとるこによって体の主だった補助機能に反射的に影響を与え、その結果視力の回復をもたらす。これまで58年間、博士課程修了者を対象に検眼の教育を続けてきたこの学校は、年に一度、眼の光治療という絶えず発展を続ける分野を対象にした会議を開いている。時代を100年先取りした研究者といえるハリー・ライリー・スピットラー博士の数々の発見により、眼がまぎれもなく「心の窓」であることが科学的に実証された。それとともに、視野の専門家にとって新しい「視野」への扉がひらかれたのである。
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